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「馬鹿みたい……」
ともかくも走って走って、とりあえずは人のいないところまで走って。
気がつけば、川の流れを見つめていた。
何という名前の川だったかは忘れた。
そこそこの川幅がある。
その川が見下ろせる場所に座り込んで、悠樹は顔を膝に埋めた。
そうすると、もう涙がとめどなくあふれ出して来た。
ただもう悲しくて仕方がなかった。
漣が他人になってしまったのだという実感が、現実として悠樹に見せ付けられたような気がする。
ただ寂しいというだけではなく、何か体の一部を失ってしまったような、そんな喪失感があった。
涙が止まったら立ち上がろうと思うのに、いつまで経っても涙は止まりそうになかった。
「こんなところに一人でいたら危ないよ」
声をかけられて、悠樹は少し驚いた。テツヤの声だった。
思わず顔を上げそうになったけど、泣き顔を見られたくなくて、悠樹は膝に顔を埋め続けた。
必死に悠樹を追いかけてきたのだろう。テツヤの息が少し切れている。
「久しぶりに会ったのに、顔も見せてくれないの?」
悠樹は何も答えなかった。
今は出来ればそっとしておいて欲しかった。
「隣、座るよ?」
そう言って悠樹の返事も聞かずに、テツヤは悠樹の隣に座り込んだ。
テツヤとは日本に帰国してから何度か連絡を取り合ってはいた。漣と別れた後も、電話をかけてきては、とりとめもない話をしたりしていた。
けれども、その連絡も、悠樹のほうから取ったりはしなかったので、最近は少し疎遠になっていたのだ。
考えてみれば、テツヤは山のような仕事を抱えているはずだった。
いつまでも悠樹一人に関わっているわけには行かないのだろう。
テツヤと疎遠になったことで、また少し、漣が離れて行ったような気がしていた。
その矢先の今日の出来事だったので、とうとう漣は自分から完全に離れてしまったのだと悠樹は思い知らされたような気がしたのだ。
「レンは会社の実務をすべて放棄することになったよ」
「え……」
そのテツヤの言葉に、悠樹は驚いた。
気がついたら、涙に濡れた顔をあげて、テツヤを見つめていた。
テツヤはスーツのポケットからハンカチを取り出して、悠樹の涙をぬぐってくれた。
その動作が以前と変わりなく優しくて、また涙が溢れてしまう。
テツヤは悠樹の顔を見ながら、話を続けた。
「本当は会社の権限を全部僕に委譲して、自分は会社から離籍するつもりだったらしいんだけど……取締役として残らない限りは引き受けないと僕が粘ったんだ。それで、とりあえず取締役としては残る。でも、もう実務には参加しない」
「どうして……」
「ユウキは気にしないでもらいたいんだけど……」
そう前置きしてから、テツヤは理由を話した。
「レンが会社に在籍する限り、君のお父さんの会社と関わり続けることになるから……だと思う」
「それは俺に気を使ってってこと?」
「それもあるだろうけど……でも、僕にはレンの考えていることはよく解らないよ……ごめん。解ったら、教えてあげれるのに……」
テツヤの言葉に、悠樹は首を横に振る。
「ともかく……今はその引継ぎのあいさつ回りをしていたところ。だから、こんな窮屈な格好をさせられてるんだ」
そう言って、テツヤはネクタイを緩めて鬱陶しそうな顔をした。
漣は悠樹ともう関わりたくない……そういうことなのだろうか。
仕事として関わることすらも、放棄しようとしている。

「レンは会社に籍を置いたままにはなるけど、日本は離れるみたいだよ」
「え……」
テツヤの言葉は、漣が実務を放棄したということよりも、さらに衝撃的だった。
日本を離れる……?
これまでも高校時代からずっとアメリカにいたわけだから、可能性としてはあり得ることだった。
だけど悠樹は漠然と、漣はずっと日本にいるものだと思っていたような気がする。
「アメリカに……帰るのかな?」
「いや……ちょっと違うみたい。アメリカじゃないと言っていたけど、どこの国に行くのかは教えてくれなかったんだ」
「そう……なんだ……」
「とりあえず、僕が会社の業務を引き継ぐ条件として漣に伝えたのは、引継ぎ後も取締役として籍を置くことと、レンに相談したいことがある時にすぐに連絡が取れればいいということだけなんだ。だから、どこに行くのかは教えてくれないみたい」
そう言って、テツヤはちょっと寂しそうに笑った。
「それって……いつ?」
「いちおう年内で引継ぎは終える予定だから……その後かな。早ければ新年ぐらい?」
「そう……なんだ……」
年内といえば、もうあと一ヶ月もない。
悠樹はちょっと途方に暮れたような気持ちになってしまう。
確かに漣とはもう連絡も取り合ってはいないけれど。
漣が会社の実務から去るということは、これからは父親の口からも、漣の話を聞くことはなくなるのだ。
そのことを改めて思ったとき、悠樹は自分の中に漣の存在が未だに大きく存在していることを認めるしかなかった。
「ユウキは……レンのこと、まだ好きなんだよね?」
テツヤの問いかけに、悠樹は力なく首を横に振る。
「解らない……」
好き、と聞かれれば、すぐに好きだとは答えられなかった。
いろんな出来事や思いが頭の中いっぱいに駆け巡って、どれが自分の感情なのかわからなくなってしまう。
「でも、さっきは何故泣いてたの?」
「それは……」
「レンが悠樹を見なかったみたいな態度を取ったからじゃない?」
「そう……かも……」
「それってたぶん、好きってことだと思うよ。恋?恋愛?」
「でも……」
「ユウキと同じようにね、レンもまだユウキのことが好きなんだと思う」
「…………」
「だから、辛くて逃げ出そうとしてるんだ。僕はそう考えているんだけどね」
そう言われても、悠樹にはちょっと信じられなかった。
さっきの態度からしてみても、漣の中では悠樹のことは決着がとっくについているものだと思えた。
もう悠樹の居場所なんて、漣の中には残っていないのだと。
考え込んだ悠樹を見て、テツヤは笑う。
「恋って羽根の生えた鳥なんだって。だから、自分でちゃんと捕まえないと、すぐに逃げてしまうよ?」
テツヤのその言葉に、悠樹は答えることが出来なかった。テツヤも答えを強要しようとはしなかったが。
テツヤは話を続ける。
「でね、その鳥を一生懸命に大切に育てて大きくすると、愛っていう名前の大人の鳥になるんだって。そうなったらもうどこへ飛んでいっても、ちゃんと二人のところに帰ってくるんだよ。これは僕の祖母から聞いた話」
そう言ってから、テツヤは立ち上がった。
「帰ろう?送っていくよ」
「い、いい……自分で帰れる……」
「ふーん……そんなことを言うのなら、レンにユウキが泣いてたことばらしちゃうよ?」
「え……それは駄目……」
悠樹はさすがに焦った。テツヤはそんな悠樹の様子を見て、勝ち誇ったように微笑んだ。
「大通りに出てタクシーを拾おう。ほら、早く」
テツヤに促されて悠樹は立ち上がり、一緒に大通りに向かった。



「ちょっとしばらくバタバタするけど……落ち着いたらまた連絡するよ」
「うん……ありがとう……」
テツヤはタクシーで悠樹を自宅前まで送り届けると、そのままタクシーに乗り込んでまた会社に戻った。
悠樹が自宅の玄関を開けると、もう皆寝静まっているようだった。
そのまま静かに二階にあがり、部屋の扉を開ける。
机の上には両親のメッセージつきの誕生日祝いの花束が置かれてあった。
「そうか……誕生日だったんだ……」
ようやくそのことを思い出した。
悠樹が漣に別れを告げた本当の理由は、漣に対する気持ちが恋愛などではないかもしれないと気づいたからだった。
悠樹は苦しくて仕方がなくて、縋るものが欲しかった。
それは確かに、文礼のことが原因だったのかもしれないけれど。
最初は融資のために漣に縋り、そしてその後は亡くした記憶に怯えて漣に縋った。
それを恋愛ではないかと勘違いしていたのだけれど、明らかに漣が与えてくれるものとは異なっていることに気づいた。
漣は悠樹に愛を与え続けてくれていたけれど、悠樹はただ単に必死になって漣に縋っていただけなのだ。
そのことに気づいたとき、悠樹は漣を解放しなければならないと思った。
あの日、解放して欲しいと言ったけれども、実際には漣を解放したつもりだった。
これ以上、自分のために何かを犠牲にしないで欲しい。
悠樹は漣の望むものを与えることが出来ないのだから。
そう考えての決断だったはずなのに。
この胸苦しさはいったい何なのだろう……。
漣が目をそらしたときに感じたあの悲しさは、いったい何だったのだろう。
そして……漣が会社の実務をテツヤに引き継ぎ、日本を去ってしまうと聞いたときの喪失感。
何だか自分は、取り返しのつかないことをしてしまったような気がした。
「俺……漣兄さんのこと……好きだったのかな……」
改めて考えてみても、やっぱりよく解らなかった。そもそも、好きという気持ちがよく解らない。漣が異性ならば、もっと単純に解ったかもしれないのだけど。
でも、漣を失いたくないと、今は心からそう思う。
漣の気持ちには応えられないと思い込んでいたけれども、漣と同じ気持ちを自分も持っていたのかもしれない……。
悠樹は携帯電話を見つめる。
二度とかけることはないと思っていた電話番号が、ディスプレイに表示されている。
思い切って、通話ボタンを押してみた。
しかし、携帯電話の向こうから聞こえてきたのは、無機質な録音テープの声だった。
『おかけになった電話番号は、現在使われておりません……』
悠樹はため息とともに、電話を切った。
電話番号が変わったとしても、それを悠樹は教えてもらえるような立場ではもうないのだ。
「これで……良かったんだ……」
やはり漣に連絡するべきではないのかもしれない……。
悠樹は改めてそう思った。



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EDIT [2011/08/06 07:12] Breath <2> Comment:2
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/08/06 08:06] EDIT
>シークレットAさん

いつもコメント本当にありがとうございます!

……というわけで、無事に完結させていただきました!
毎日の更新をくじけそうになったときも実はありましたが、毎日くださるコメントにとても励まされ、何とか完結までこぎつけることが出来ました(笑)
本当に感謝しています、ありがとうございました!

毎回読むのも大変だと思いますが、毎回コメントを書くのも本当に大変だと思います(汗)

これから漣も悠樹もますます成長して、少しずつ大人(年齢的にはもう大人ですが・笑)になっていくのだろうなと思います。
たぶん、いろいろとまたあるのでしょうが、一度大きなことを乗り越えた二人なので、頑張っていくのではないかと考えつつ、物語を終了させていただきました。

サイドストーリーという形で二人や他のキャラともにお目にかかることがあると思いますので、ぜひまたその際には読みに来ていただけると嬉しいです!

毎日のコメント、本当にありがとうございました!
[2011/08/07 08:08] EDIT
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