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羽田空港に到着すると、滑らかな日本語のアナウンスが流れてきた。
「あ~……なんか久しぶり……」
「そうだね。日本語のアナウンスだ」
「うん……なんか懐かしい」
ようやく日本に帰ってきたという実感が沸いてきた。
今日は実家のほうへ帰るということは、すでにテツヤに伝えてあった。
漣のマンションには自分の荷物や着替えも置いたままなのだが、とりあえず今日は実家に戻ることに決めた。
しばらくの間、実家でのんびりと暮らしながら、この先のことを考えようと思っていた。
飛行機の中で悠樹は、漣の会社と悠樹の父親の会社が情報システムの分野で業務提携を開始したことを聞いた。
ビジネスの面でのことには元から何も言うつもりはなかったのだけど、テツヤが気を使って事情を話してくれたみたいだった。
業務提携は藍澤興産に漣が融資を始めた頃から持ち上がっていた話で、情報分野に力を入れたい藍澤興産と日本での業務展開を始めたばかりだった両者の思惑が合致し、ほとんど相思相愛のような状態でプロジェクトが進んでいったということらしい。
お互いの多くの社員が関わっているので、漣としても今さら中止には出来なかったのだという事情も聞かせてくれた。
テツヤがそんな話をわざわざしてくれたのは、悠樹が父親などからいきなりその話を聞いた時の反応を気にしてくれたのかもしれない。
悠樹の父は今もまだ今回の件についての詳しい事情をほとんど知らない。
漣の会社のトラブルに巻き込まれる形になったという説明を、漣自身がしてくれたようで、両親ともにその話に納得していたようだった。
そういう事情だったので、家に帰れば、父親が何気なく漣の話を出してくることだって十分にあり得る話だった。
実際に、ニューヨークに父親が電話をかけてきたときなどは、漣の様子などを聞かせてくれたりもしていた。
それを聞くのが辛い時期もあったが、電話だということもあったので、そんな悠樹の思いまでは父親には伝わっていなかったと思う。
悠樹はふと思いついて、テツヤに聞いてみた。
「あのね……漣兄さんは、業務提携を中止にしようとしたりしたの?」
先ほどのテツヤの話によれば、そういうこともあったようなのだが。
「いや……中止というか……考え直そうかという話をレンが持ち出してきたことはあったんだ」
「そう……なんだ……」
「ただ……もうプロジェクトはかなり進行していたし、ストップをかければ、互いの会社に大きな損害も出てしまうような段階だった。だから、そのまま何事もなく進めたんだ」
「そっか……」
漣が業務提携を考え直そうと言ったのは、悠樹のことが原因だったのだろうか……。
悠樹に対する負い目のせいで?
「ユウキ、こっち」
「あ、う、うん……」
気がつくと、行く方向を間違えそうになっていた。
慌ててテツヤを追いかけながら聞いてみる。
「あの……漣兄さんの明日の予定って……わかる?」
「あ……うん。ちょっと待って」
テツヤはそう言って、バッグの中から電子手帳を取り出した。
「明日は夕方ぐらいに空き時間があるみたい」
「そうか……ちょっと会いたいんだけど……大丈夫かな?」
「そう伝えておくよ」
テツヤは深くは詮索せずに軽い感じで請け負った。



「ただいまぁ~」
「お帰りなさいませ!」
久しぶりの実家では、お手伝いの篠田が満面の笑みで迎えてくれた。
空港まで迎えに来てくれた父親が、悠樹のスーツケースを2階の部屋まで運んでくれる。
「悠樹……おかえりなさい……」
母の千里は少し涙ぐんでいる様子だった。子離れするといいつつも、やはりなかなか子離れはできていないようだった。
ニューヨークから何度か電話で話をしたりもしていたのだが、今回の件でかなりの心配をかけてしまったので、悠樹は申し訳ない気持ちになった。
「母さん、ごめんね。心配かけちゃって」
「本当に……すごく心配したけど、すっかり元気そうで安心したわ」
涙をぬぐいながら、千里はそう言って微笑んだ。
「あ、父さんにスーツケース持たせたままだ」
悠樹は慌てて階段を駆け上がった。
階段を上がったところから悠樹の部屋の扉が開いているのが見えた。
「父さん、ごめん!」
慌てて部屋に駆け込むと、父が悠樹の部屋を眺めていた。
「父さん……ごめんなさい。本当にいろいろと心配をかけちゃって……」
悠樹は改めて父に詫びた。
父は悠樹の肩にそっと手を置き、優しく微笑んで首を横に振る。
「今回のことは仕方がない。漣くんもかなり謝ってくれたが……急成長した企業が狙われるのはよくあることだ」
「うん……」
「漣くんに対しても、私も母さんも責任を押し付けるような気持ちはまったくないよ。悪いのは、暴力に任せて利益を得ようとする連中たちなんだからね」
「そうだね……」
結局、今回の事件は漣があれほどの大怪我をしたにも関わらず、うやむやに済まされてしまったらしい。何か大きい力の圧力があったのではないかと、テツヤなどは言っていたけれども。
「心細いようだったら、家に戻ってきなさい。戻ってくるのも自由、また出て行くのもお前の自由だ」
「はい……」
父はそれだけを言うと、悠樹の部屋を立ち去っていった。
幼い頃から厳しく叱られたり、何かを強制されたりというようなことはほとんど記憶にない。
大切に大切に育てられてきた。
そんな父や母に、心配をかけるだけの存在にはなりたくないと思う。
「勉強しなくちゃ……」
悠樹はそう思った。今の自分に出来ることは、しっかりと勉強をして、将来のための力をつけることだ。
そして、いずれは父に安心してもらえるような存在になること。
今はまだそんな自信はないけれど。
自分が父の後を継いで行かなくてはならないのだということを、改めて悠樹は自分自身に言い聞かせた。



翌日の夕方……漣から連絡があった。
悠樹がテツヤに連絡を取るように頼んでおいたことだから、驚いたりはしなかったのだけれど。
五ヶ月ぶりの漣の声は、それを聞いているだけで涙が溢れそうになるのを堪えなければならなかった。
「久しぶり……」
言葉に詰まって無言のままの状態が続いたけど、やっとその一言が言えた。
「久しぶりだな……」
漣のほうも、しみじみとそう言った。
「今、家の外に来ている。電話で済まない話なら、会って話すか?」
「うん、外に行く」
悠樹はそう言って電話を切った。
玄関を出ると、漣の車が止まっているのが見えた。
そして、助手席側に、漣が立っているのが見える。
懐かしい長身のその姿を見て、悠樹は胸が締め付けられそうになった。
それを堪えながら、漣の元に駆け寄った。
「仕事は……大丈夫なの?」
「ああ……2時間程度ぐらいまでならいいと許可をもらってきた」
「そんなに長い時間には……ならないと思う……」
「そうか……まあ、ちょっと場所を変えよう」
漣はそう言って、助手席を開けてくれる。
確かに家の前で話すような内容ではなかった。
ありがたくそのまま助手席に乗り込むと、漣は運転席に戻って車を発進させた。



漣はちょっと見晴らしの良い高台の上で車を停めた。
降りると、ちょうど街が夕焼けに照らされて、黄昏色に染まっているのが見えた。
日本であるのに、日本でないかのようなエキゾチックな景色がそこに広がっている。
「すごいなぁ……こんな景色が見える場所があるんだね」
「そうだな……」
そう漣が答えてしまうと、それで会話が途切れてしまった。
呼び出したのは悠樹なのだから、悠樹のほうから話を切り出さなくてはいけない。
それでなくとも、漣は仕事の合間をぬって駆けつけてきてくれているのだから。
「漣兄さん……俺……」
悠樹はそう切り出して、漣の顔を見上げた。
くじけそうになる自分の気持ちを励まして、ずっと考えていたことを告げる。
「俺……もう解放してもらっていいかな……?」
おそらく、だいたいの予想はついていたのだろう。
漣は何も言わずに悠樹の言葉に頷いた。
「今までいろいろと良くしてくれたのに……本当にごめんなさい……」
「いや……すまなかった。お前を守りきれなくて……」
「それは俺も謝らないと……いつも漣兄さんのいうことを守らなくて……それで迷惑をかけて……」
「巻き込んだのはすべて俺だ。俺が原因であることに変わりはない」
きっぱりと言い切る漣の言葉に悠樹は首を横に振る。
たとえ、すべての原因が漣なのだとしても。
文礼のことも、その後の汪の邸宅でのことも、きちんと漣の忠告を聞いていれば起こらなかったかもしれないことだ。
だから、そのことで漣を責めるつもりはなかった。
そういうことが理由なのではなかった。
「俺……今、漣兄さんの傍にいることが苦しい……」
「悠樹……」
「だから……解放して欲しいんだ……」
漣は何も言わずに悠樹を抱きしめ、掠れた声で告げた。
「解った。解放してやる。……お前は自由だ」
「ごめんなさい……」
自由という言葉が、これほど悲しい響きを持つ言葉だということを、悠樹は生まれて初めて知ったかもしれない。


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EDIT [2011/08/04 06:27] Breath <2> Comment:2
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/08/04 21:29] EDIT
>シークレットAさん

いつもコメントありがとうございます!
悠樹があえて解放という言葉を使ったのには、いろんな思いや意味がありました。
漣にとってはものすごく強烈なパンチだったと思います(笑)

漣は目の前に現れた悠樹を強引に自分のものにしましたが、でも、強引以外で同性に興味のない相手を振り向かせることって、すごく難しいのではないかなと思います。
だからといって、漣の罪が軽減するわけではないとは思いますが(笑)

悠樹の父は二代目なので、一代目ほどの覇気やクセはないにしても、やはり経営者ですので、それなりの考えに基づいて、言葉を言ったり、行動を取ったりはしていると思います。
そういう部分を悠樹も感じ取って、たくさん勉強しようとか思い始めたのかもしれません。

また次回も頑張って更新していきますので、ぜひ読みに来ていただけると嬉しいです!
[2011/08/05 08:32] EDIT
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