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心理的なものが原因だと考えられるが、悠樹はあの日以来、声がまったく出なくなってしまった。
本人は声を出そうとしてみたらしいが、出なかったのだという。
それでパニックになってしまった悠樹を、テツヤや淳平が必死になだめたらしい。
らしいというのは、漣はその頃病室にいて、傷のせいで高熱が続いていたため、病院を出ることを禁じられていたからだった。
テツヤから報告を受けた漣は、斉藤に連絡を取った。斉藤はすぐに悠樹をニューヨークによこすように言い、漣もそうするしかないと判断した。
テツヤがそれに付き添うことになり、悠樹の家族や学校関係への連絡や手続きは漣がすることになった。
学校への連絡はともかく、悠樹の両親への報告は、事情が事情だけに、すべてを正直に話すことはできなかった。
漣の会社がタチの悪い企業に狙われ、そのとばっちりをくらって悠樹を巻き込んでしまい、ショックで言葉が話せなくなってしまったというかなり苦しい言い訳をすることになった。
漣の懇意にしている医者がアメリカにいるので、しばらく大学を休ませて、その医者のもとで治療を受けさせたいと告げると、悠樹の両親はかなり心配そうにしていたが、基本的には漣を信頼していたので、最終的にはすべてを漣に任せるという話になったのだ。
悠樹がニューヨークに出発する日も、漣はまだ病院のベッドの上だった。
ようやく熱が下がり、痛みも少なくはなってきたが、まだ退院許可が出る許可は出ていない。
それでも何とか見送りに行きたい気持ちはあったが、悠樹が自分を拒絶していることも解っていたので、すべてテツヤに任せることにした。
あの日、ニュースになると思われていた汪の死は、ついにニュースで取り上げられることはなかった。
テツヤに調べさせてみると、汪はピンピンしていて、連日のように日本の企業との会合などにも積極的に参加しているという。
漣もまだ病院のベッドの上にいるというのに、心臓を撃ち抜かれたはずの男がピンピンしているはずはなかった。
文礼のことも調べさせてみたが、彼も普段どおり、汪の行く先に同行しており、これも以前と何ら変わることはないのだという。
心臓を撃ち抜かれた汪がいったいどこへ行ったのか?
気になることではあったが、それは漣などが詮索するべき問題ではないと思った。
それよりも、漣には悠樹の状態が気にかかる。
自分を拒絶された瞬間はそれなりにショックもあったが、自業自得なのだと納得させた。おそらく悠樹は取り戻した記憶の中で、漣と文礼の関係がこのような事態を招いたことを知ったに違いない。
自分の過去が悠樹を巻き込んでしまったことは間違いないのだから、それは否定も言い訳もするつもりはなかった。
このまま二度と悠樹と元のような関係になれなくても、それが自分の罪なのだろうと思う。
それだけのダメージを、悠樹は受けてしまったのだ。
幸いにも、悠樹が拒絶しているのは漣だけで、テツヤには筆談で何とか会話をしようとしたりもしているらしく、そこは漣が唯一安堵しているところだった。
たとえ直接自分が関わることが出来なくても、悠樹を守り支えることは出来るはずだ。
それがもし、この先悠樹が漣を拒絶することがずっと続くことになろうとも。
漣は窓の外に見える空を見る。
悠樹を乗せた飛行機が飛び立ってから、13時間が経過しようとしていた。
そろそろニューヨークに着く頃だろうか。



ニューヨークのジョンF.ケネディ国際空港には、斉藤が車で迎えに来てくれていた。
斉藤を見た瞬間、悠樹は少し怯むような様子を見せたが、ハグをしてきた斉藤を悠樹は拒もうとはしなかった。
その様子を見て、テツヤも少し安心する。
悠樹が誰を拒み、誰を許容するのかということは、テツヤにも予測がつかないことだった。
斉藤を拒まなかったということは、治療が可能だということだ。
漣の話によると、斉藤にはテツヤも知らないような事情まですべて話しているのだという。
だから、すべて任せておけばいいと漣は言っていた。
「車、僕が運転しましょうか?」
「ああ、いいよ。どうせすぐに着くし。飛行機って疲れるだろ?休んでるといいよ」
「解りました。じゃあ、お任せしてちょっと休んでます」
そう笑って、悠樹とともに後部座席に乗り込んだ。
斉藤が言ったとおり、空港から斉藤の事務所兼診療所までは20分程度の距離だった。
マンハッタン島ではなく、ブルックリン区の住宅街の一角にある。
ニューヨークの懐かしい景色と匂いを感じながら、日本とかけ離れたこの空気の中でなら、悠樹もすべてを忘れてのんびり過ごすことが出きるのではないかと思った。
「さあ、入って。ちょっと薬品臭いのは我慢して欲しいな。いちおう診療所も兼ねているから」
こじんまりとした一軒家だった。こじんまりとはいっても、日本の一般的な一軒家よりはかなり大きい。
プレートが掲げられていなければ、ここが診療所だとは解らないぐらい、普通の住居だった。
しかしこの家は、きちんとアメリカ政府から認可を受けている診療所であり、斉藤が主催するNPO法人の事務所なのだった。
「時差もあるし、二人とも疲れただろう?」
斉藤の問いかけに、悠樹は少し笑いながら首を横に振った。
「とりあえず悠樹の部屋に案内するよ。テツヤの部屋はその隣に」
「ありがとうございます」
「いや、何しろ一人住まいだから、部屋だけは余ってるんだ。飽きたらホテルでもどこでも行ってくれたらいいし」
斉藤に案内された部屋は、正確には客間というよりは、入院患者用の部屋だったが、そんなふうには思わせないほど、普通の造りの部屋だった。
おそらく斉藤がそのように家具などを配置しなおしたのかもしれない。
「夕方にはマンハッタンまで買い物にでも出てみるか。悠樹もせっかくだから観光したいだろうし」
「そうですね。ユウキ、どう?」
テツヤの問いかけに、悠樹は嬉しそうに微笑んだ。



約束どおり、夕方から三人はマンハッタンへ車で出かけた。
斉藤の家からマンハッタンまでは、ブルックリン橋を渡ってイーストリバーを越えるとすぐだった。
そこからイエローキャブなどに混じって道路を北上し、ミッドタウンにあるちょっと有名なスーパーへ行った。
そこでいろいろな食材を買い込んだら、ちょっとその辺りの街並みを観光して、再び車に乗り込んでブルックリンに戻った。
夕食作りは斉藤とテツヤが分担して行なった。悠樹に料理をさせてはいけないという話を、二人はもうすでに漣から聞いていたからだ。
斉藤が大好きなワインを取り出し、出来上がった料理を食べているうちに、いつの間にか悠樹が眠っていた。
「やっぱり疲れてたんだな」
ソファにもたれかかって眠る悠樹を見て、斉藤は笑う。
「そうですね……でも、久しぶりじゃないかな。こんなにぐっすり眠ってるの」
「そうか……」
「やっぱり日本を離れて良かったのかも。いつかは戻らないといけないけれど」
「そうだな……まあ、今夜は悠樹の面倒は俺が見ておくよ。君は久しぶりにガールフレンドのところにでも行って来たらどうだ?」
斉藤がそう言ってウインクすると、テツヤはちょっと顔を赤らめた。
テツヤのガールフレンドがニューヨークにいるということを、斉藤は以前に少し聞いたことがあった。
「でも、悠樹の状態が心配だし……」
「これだけぐっすり眠っているなら、今夜は心配ない。明日から俺の手が回らないときは、代わりに面倒を見てもらわないといけないし」
斉藤がそう促すと、テツヤは少し考えた後に頷いた。
「それなら……ちょっとお言葉に甘えさせてもらおうかな。本当なら2ヶ月も前にこっちに戻るはずだったから、彼女が最近電話でも機嫌が悪くて」
そう言って肩をすくめながら、テツヤは照れくさそうに笑った。
「花束でも買っていくんだな。車は使っていいぞ」
「ありがとうございます。たぶん、帰りは明日の朝になると思います」
テツヤは斉藤から車の鍵を受け取ると、スキップでもしそうな軽やかな足取りで出かけていった。



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EDIT [2011/08/02 06:35] Breath <2> Comment:2
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/08/02 22:57] EDIT
>シークレットAさん

いつもコメントありがとうございます!

声が出ないとなると、もう大学どころではないのでしょうね。
NYでの生活は一話で書ききってしまいましたが(全部書くとものすごい量になりそうだったので・汗)、状態的にはよくなってきた感じですね。

テツヤは、いちおうアメリカでは仕事もしていましたが、悠樹の面倒を斉藤と相談してみながら、仕事を調整していたという感じかなと思います。
細かく描ければよかったのですが、話的に長くなりそうだったのと漣は日本だし、テツヤはノーマルだしで、BL的要素がまったくないので、その辺りの部分は容赦なくカットしてしまいましたが(笑)
仕事で面倒を見ているというよりは、いろんな場面を見たので、感情的にも移入して……という部分も大きいかなと思います。
悠樹のあの性格は役得ですよね(笑)

文礼につては、もう……転んでもただでは起きないというか(笑)
いつかサイドストーリーなどで、その辺りの話にも触れていけるといいなと思います。

いつも丁寧にコメントいただいて、本当に感謝しています!
まだお話は続きますが、ここまで書けたのも読んでくれる人の存在があったればこそ!と思っています(笑)

また次回もぜひ読んでやっていただけると嬉しいです!
[2011/08/03 08:07] EDIT
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