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トミビコと一緒に広間にたどり着くと、そこにはたくさんの人がいて、あっちへこっちへと忙しく動き回っている。
色とりどりの珍しい衣服を着た人が動き回っているのが陸には珍しくて面白い。
まるで映画か何かを見ているみたいだと思う。
考えてみたら、こんなふうにじっくりとこちらの人を見るのは初めてのことかもしれない。
(確かに……女の人の服装は天女さまとかそんな感じだし、男の服装も神様と言われればそういう漫画で見たような服装をしてるよな……)
「陸さまはこちらにいてください。少し外の様子を見てきます」
「あ、うん……」
バタバタと広間を出て行くトミビコを見送って、陸はとりあえず座れそうなところを探して、そこに腰を落ち着ける。
鬼を退治しに行ったというアマツのことが心配だった。
そろそろ戻ってくるとトミビコは言っていたけれども、まだ戻ってこないのだろうか。
(鬼退治に手こずってるとか……まさか鬼がめちゃくちゃ強かったとか……)
待っていると悪いことばかり考えてしまう。
昨夜はほどんと寝てないはずだし、そんな状態で本当に鬼退治なんて出来るんだろうか……。
そんなことを考えていると、外のほうがにわかに騒がしくなった。陸は思わず腰を浮かせた。アマツが戻ってきたのかもしれない。気がつくと声のするほうに駆け出していた。
広間の入口に、その姿があった。
体のあちこちに痛々しい傷はあったものの、アマツは笑みを浮かべている。どうやら無事だったらしい。
「アマツ!」
陸は人の輪をかきわけて、アマツのもとへ駆け寄った。
「陸」
「大丈夫? 怪我……してるみたいだけど……」
「ああ、問題ない。かすり傷だ」
アマツはそう言って笑うと、いきなり陸の体を持ち上げ、抱きかかえた。
「うわっ!? な、何するんだよ!?」
「部屋まで連れて行ってやる」
「い、いいって! 自分で歩くから下ろせよ!」
陸は抵抗したが、高い位置で抱きかかえられているので下手に暴れて落とされても困る。それで結局は抵抗をやめ、抱きかかえられたままになっていた。
「鬼を倒すことが出来たのはお前のおかげだ」
「そ、それは分かったから……下ろせって……」
「皆にもお前のおかげだと伝えないといけないだろう」
気がつくと周りの人たちがクスクスと笑っていた。陸はとたんに恥ずかしくなって、アマツの胸に顔を押し付けた。
「どうした?」
「は、早く連れていけよ……恥ずかしいから……」
「分かった」
笑い含みに言われ、陸はふてくされたようにさらに強く顔をアマツの胸に押し付けた。
恥ずかしかったけれど、皆の前でこうして特別扱いしてくれることは嬉しい。恋人とかそういう確かな位置にいるわけではないけれど。アマツ自身も、そして周りの人達も、陸のことを認めてくれているような気がして。
部屋に戻ると、トミビコがアマツの手当をするためにやって来た。
傷はどれも浅かったが、その数が多かった。
トミビコは水桶とたくさんの薬のような粉の入った箱を持ってきていた。陸が見ても、いったい何が何だかよく分からないけれど、トミビコはさまざまな粉を合わせて調合し、アマツの手当てに取り掛かっていく。
「染みますけど、我慢してくださいね」
トミビコはそう言いながら、血の滲んだ傷口に薬を染み込ませた布を押し当てていく。
「アマツさま……痛くはありませんか?」
「ああ、大丈夫だ。悪いな」
「いえ……これは私の仕事ですから、気にしないでください」
トミビコは微笑むと、丁寧にアマツの傷口の手当をしていく。その手際も良く、アマツ自身もトミビコのことを信頼している様子で、すべてを任せていた。
陸はそれをただ黙って眺めていることしか出来ない。
(包帯だって巻いたことないし……やっぱりここは任せておいたほうがいいんだよな……)
テレビドラマや何かでは、こういう時は恋人が手当をしたりなんかして愛を深め合ったりもするのだろうが。
残念ながら、陸の出番は今はないようだった。
「……ッ……」
アマツが微かに息を詰めたのを聞き逃さず、トミビコは慌てて手を止める。
「あ、すみません。ちょっと強くしすぎましたか?」
「大丈夫だ。気にせずに続けていいから」
「はい……」
「お前に任せておけば安心だ。だから、心配せずにやってくれ」
「分かりました」
寄り添う二人の姿は、まるで仲睦まじい恋人のようにも見える。トミビコが小さく、見た目も少女のように愛らしいから余計にそう思ってしまうのかもしれないが。
(何だろう……胸のあたりがもやもやする……)
トミビコのことは嫌いではないし、むしろこの世界の知らないことを親切に教えてくれたり、衣服の着替えなんかの面倒だって見てくれる。なのに、どうしてこんなにもやもやとした気持ちになってしまうのだろう。
「あ……ここは傷が深いので、また染みるかも……」
「気にするな。もっと適当にやっても良いのだぞ」
「いえ、そういうわけにはいきません。アマツさまは大切なお方なのですから」
(アマツって……トミビコにすごく優しいんだよな……っていうか、誰に対しても優しいけど……)
昨夜アマツに抱かれて、ひょっとすると自分は特別なのかもしれないと陸は思ったが、案外そういわけではないのかもしれない。
アマツは誰にでも優しく、誰にでも陸に対するのと同じように接するのだろうか……。
(ってことは……セックスとかも他のやつとヤッたりしてるのかな……)
さすがにこれまで未経験なんてことはないだろうし、経験はそれなりにあるのだろう。
今さらながらに陸は気づいた。自分がアマツの唯一の存在などではないという可能性に。
「…………」
トミビコの手当ては続いている。時折アマツは笑みさえ浮かべながら、トミビコの手当を受けている。
(所詮俺は用があるときだけ必要な存在だし……それに比べてトミビコはこれからもずっとアマツの傍にいるんだ……)
そんなことを考えているうちに、陸は何だかとても悲しい気持ちになった。
いったいアマツは陸のことをどう考えているのだろうか……。
◇
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