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その日、三芳はいつも通りに出勤してきた。
その様子も数日前までの不機嫌な雰囲気はなく、いつもと同じ、愛想の良い笑みを浮かべながらスタッフに挨拶をしている。
(良かった……いつもの三芳さんだ……)
弘海は内心でホッとした。
昨日の夕方に三芳はもう一度橘のマンションを訪れると言っていた。
その時に橘と何らかの和解でもあったのだろうか……。
気になりつつも、三芳と目があったので、弘海は慌てて頭を下げた。
「おはようございます」
「おはよう。新婚生活はどうだ? 順調か?」
「あ、は、はい、何とか……」
いきなりそんなことを聞かれて、弘海は焦りながらも答えた。
答えながら、何か橘に関することを聞いてみようと考えたが、いざ三芳を前にすると何を聞けば良いのか解らなくなっていた。
弘海よりも先に三芳のほうが口を開いた。
「旦那は国に帰ってるんだっけ?」
「いえ、今はこっちに来てくれています。また向こうに戻ると思いますが……」
「そうか……遠距離結婚っていうのも、なかなか大変だな」
「そうですねえ……でも、だいぶ慣れましたし」
話がすっかり弘海のことになってしまい、弘海はますます聞きたいことを聞けなくなる。
「そういや、もう三ヶ月ほどだっけ?」
「はい。三ヶ月過ぎたぐらいですね」
「まあ、弘海なら何とかやっていけそうだな」
「今のところは……何とかなりそうです」
少し照れながら笑うと、三芳も笑みを浮かべた。
どうやら今日の三芳は、本当にいつも通りの三芳のようだった。
「じゃあ、俺は店に出てくる」
「はい、よろしくお願いします」
三芳が店に出たのを見て、弘海はホッとするのと同時に、ため息をつく。
(ショーンには三芳さんに話をしてみろって言われたけど……タイミングが難しいなぁ……)
帰りに一人でいるところを見つけることが出来れば、今日の三芳ならば何とか話も出来そうな気はするのだが。



「弘海、時間だよ」
夕方のピークのための準備をしていると、橘に声をかけられ、弘海は顔を上げて時計を見た。
時計の針はちょうど弘海の終業の定時を示している。
「あ……本当だ」
「今日は雨で店も暇みたいだし。早く彼のもとに帰ってあげるといいよ」
「あ、は、はい……すみません」
三芳だけでなく、橘にまでショーンのことを気遣われ、弘海は少し慌てた。
「謝るようなことじゃないよ。弘海が幸せなのはとても良いことなんだから」
「は、はい……」
返事をしながら、弘海はまた昨日のことを思い出してしまいそうになる。
橘の気持ちにまったく気づかなかった弘海の鈍感が、本当に橘を自暴自棄にさせてしまったのだろうか……。
まさかそんなことはないだろうと思いながらも、ひょっとすると……という気持ちが頭をよぎってしまう。
「どうしたんだ?」
「い、いえ、大丈夫です!」
「ひょっとして、彼と喧嘩でもしたのか?」
「だ、大丈夫です、本当に大丈夫なんで……あの……お先に失礼します!」
弘海はバタバタと自分の作業台周りを片付けると、慌てて厨房を後にした。



「はぁ……」
ロッカールームに戻った弘海は、思わずため息をつく。
橘の顔を見ると、どうしても昨日のことを思い出してしまう。
橘が弘海を好きだと認めたこと……そして、そのことが新城の誘いに乗ってしまった原因ではないかということ。
「本当に俺が原因なのかな……」
もう一度ため息をついたところで、誰かが入ってくる気配がした。
「あ、弘海さん。もう終わりなんですね」
「ああ、リュウスか……」
「ショーンさまが外に迎えに来られてますよ」
「あ、うん……」
何となく迎えに来てくれそうな予感はしていたが、弘海は慌てて着替えを済ませる。
「今日は平和な一日でしたね」
リュウスに話しかけられ、弘海は振り向いた。
リュウスは休憩時間のようで、自分で入れた紅茶を飲んでいる。
「ああ、橘さんと三芳さん?」
「はい。お二人とも会話をしておられましたし、笑顔も見られましたし」
「うん。良かったよね。仲直り……できたのかな」
「そうだといいですね。やはりお二人は仲が良いほうが安心します」
「そうだね。俺もそう思うよ」
着替えを終え、ロッカーを閉める。
「今日は遅番?」
「はい。でも、生憎の雨ですから、あまり忙しくはなさそうですよね」
「うん。暇だと時間が長くなるけど、頑張ってね」
「はい」
「じゃあ、お先に」
「はい。お疲れ様でした」
リュウスに笑って、弘海はロッカールームを後にする。



店を出ると、リュウスが言ったとおり、ショーンが迎えに来てくれていた。
「ショーン、来てくれてたんだ?」
「ああ、特にすることもなかったし」
ショーンが笑って手を差し出してきたので、弘海もその手を繋いだ。
「帰ろうっか」
「ああ」
一緒に並んで歩き出そうとした時、見覚えのある赤い派手な車が店の前に止まっているのが見えた。
「あ……三芳さんだ。出かけるのかな……」
「どうした?」
「三芳さんと話をしようと思ったんだけど、今日はゆっくり話せてないんだ」
弘海はちょっと考えてから何かを思いついたように頷いた。
「ね……ショーン。ちょっと猫になれない?」
「は?」
「お願い。三芳さんと話しがしたいんだ」
「だからといって、何で俺が猫に……」
ショーンはあからさまに不満そうな顔をした。
「ショーンがいたら、三芳さんもちゃんと話してくれないかもしれないじゃん」
「それはそうだろうが……」
「ね……お願い……」
弘海にお願いされると、結局ショーンは断れなかったようだった。
気がつくと、ショーンが立っていた場所に一匹の黒猫がいた。
「ごめんね、ショーン」
黒猫を抱き上げ、弘海は急いで三芳の車に駆け寄った。



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