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その日の橘は、いつもと様子が違っていた。
あまり口を利かないし、どことなく元気がないようだった。
だからといって機嫌が悪いというようなことはなく、いつも通りに優しくて、弘海やスタッフのことを気遣ってくれる。
ただ、三芳とはあまり口を利いていなかった。
三芳のほうでも、橘を避けているような様子だ。
「うーん……」
休憩室で束の間の休息を取りながら、弘海は唸った。
弘海は橘や三芳を除けば唯一の社員であるとはいえ、経営に関してはまったく関知していない。
そもそも経営に関知するどころか、目の前に覚えることが山のようにあって、そんなところまで手が回らないというのが現状なのだが。
今朝の言い争いの内容からすると、どうやら経営方面の問題のようだったので、弘海も下手に口を出すことが出来なかった。
メインバンクがどうとか、取引がどうとか、そういう話をしていたのだから、やはり弘海はあまり口を出さないほうが良いのだろう。
けれども、店の中での雰囲気がぎくしゃくしていることに関しては、何とかしないといけない気がする。
特に三芳の機嫌が悪いのはいけない。
他のスタッフも、何となくいつもと違う雰囲気に気づいてもいるようだし。
休憩時間がそろそろ終わりそうになった頃、入れ替わるようにしてリュウスが休憩室に入ってきた。
「あ、お疲れ様」
「弘海さん、ちょうど良かったです。ショーンさまから伝言です。明日の夜は行けなくなったと」
「あぁ……ありがと……」
今朝別れたばかりだというのに、弘海はちょっと落胆した。
結婚したばかりの時とは違って、最近は来ると言って来れないことも多いので、慣れていかなければいけないとは思うのだが。
「まだトラブルが続いているみたいですね」
「何の……トラブルなんだろう……」
ショーンはあまり国で起こっているトラブルについては弘海に話さない。
だから弘海は事情がいまいち飲み込めていなかった。
「隣の国でクーデターがあって、その国からたくさん人が我が国に流れ込んできているらしいのです」
「そうなんだ……大変だね……」
「はい。流れ込んできた人たちの対応と、それに乗じて入り込んできた犯罪者たちの摘発と……国境の警備隊は目の回るような忙しさだということです」
「ショーンに危険はないのかな……」
「完全に安全という保障はありませんが、常に周りには警備の魔法使いたちがいますので、大丈夫だと思います」
「そうか……」
「それにショーンさま自身、魔力が充実していれば、国の中でも一、二を争う魔法の使い手ですから、ご自身の身はご自分で十分に守ることが出来ると思います」
「そうだね……」
そう答えながらも、物騒な話を聞くと、何となく心配になってしまう。
弘海が結婚式で行った時は平和そうな国だったけれども、以前にも城の中に不届き者が入り込んで、王様が襲われそうになったことがあったとショーンが言っていた。
弘海が小さく息を吐くと、リュウスが話題を変えるように話しかけてきた。
「それよりも弘海さん」
「うん?」
「何だか今日は様子が変じゃないですか?」
「様子?」
「はい。橘さんや三芳さんの様子が、どことなく変だと思うのですが」
「う、うん……そうだね……」
やはりリュウスも今日の二人の異変に気づいているようだった。
だとしたら、他のスタッフだって当然気づいているだろう。
「弘海さんは何か知っているのですか?」
「知っているというか……まあ、いろいろ大変なんだと思うよ。店の経営って、いろいろあるし……」
弘海は曖昧に笑ってごまかした。
さすがに今朝の話はリュウスや他のスタッフにするべき話じゃないだろう。
「じゃあ、俺そろそろ戻らないと。ゆっくり休んでね」
何となく先輩っぽいことを言って、弘海は立ち上がった。



「橘さん、俺、残ったほうがいいですか?」
定時になったので、弘海は残業が必要かどうかを聞いてみたが、橘は首を横に振った。
「いや、今日は大丈夫だよ。お疲れ様」
「じゃあ、お先に失礼します」
「うん。また明日よろしく」
いつもよりも橘との会話が少なかったこともあって、弘海は何となく物足りない気持ちで店を出た。
普段はそれだけ多く橘と会話をしているということなのだろうが、弘海は早くいつもの橘に戻ってくれるといいのにと思った。
店を出ると目に飛び込んできたのは、三芳の派手な車だった。
どうやらどこかへ出かけるところらしい。
今朝の不機嫌な様子を思い出して一瞬、躊躇したが、弘海は思いきって三芳に声をかけてみることにした。
「三芳さん、お疲れ様です」
三芳は何か考え事をしていたのか、弘海の声にすぐには反応しなかった。
少し間をおいて、ようやく弘海の存在に気づいたように笑みを作ってみせる。
「あ、ああ、お疲れ。もう終わり?」
「はい。今日は残業しなくてもいいって言われたんで」
「そうか、じゃあまた明日」
話を切り上げようとする三芳に、弘海は少し迷ってから言葉を続けた。
「あ、あの……今朝の橘さんとの話、俺聞いちゃったんですけど……何か店の経営が大変だったりするんですか?」
「いや……別に経営のほうに問題があるわけじゃないんだ」
「そっか……俺、社員なのに自分のことばかり必死で何も出来てないから、ちょっと気になっちゃって……余計なこと言ってすみません」
「弘海が謝ることはない。悪いのは健介だ」
「三芳さん……」
きっぱりと言い切る三芳に、弘海は少し驚いた。
「あいつが優柔不断だから駄目なんだ。せっかく俺が……」
言いかけて三芳は言葉を途切らせた。
「悪い……ちょっとイライラしてたな」
三芳は苦笑する。
「いえ……あ、あの……本当に俺に出来ることがあったら、何でも言ってください。出来ることのほうが少ないと思いますけど」
「ああ、ありがとう。気を使わせて悪かったな」
「い、いえ……じゃあ、帰ります。お疲れ様でした!」
これ以上、突っ込んだ話をすることもためらわれて、弘海はその場を後にした。



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