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マンションの部屋に戻る間、弘海もリュウスもまったく口を利かなかった。
こういう雰囲気は苦手なので、何か話そうと思いながらも、弘海は言葉が出てこなかった。
結局、お互いに黙り込んでいるうちに、部屋の前にたどり着いてしまったのだが……。
弘海の頭の中には、リュウスの懇願にも似た言葉がぐるぐると回っていた。
『弘海さんは、迷惑なんですよね? ショーンさまに想われるのは……』
(迷惑……? それは違う……でも、俺はショーンのことをどう思ってるんだろう……自分の気持ちなのに……考えても考えても、解らない……)
ただ、考えたところで、弘海がショーンを受け入れるという選択肢は絶対にないということは変わりそうになかった。
それならば、リュウスの提案を受け入れるのかと考えてみても、それが本当の気持ちならともかく、嘘の気持ちをショーンに伝えることは、何かが違うような気がした。
「ただいま……」
部屋に入ると、ショーンはもう起きていた。
顔色もずいぶんと良くなっているし、順調に回復しているということなのだろう。
「遅くなってごめん……ご飯、作るね」
弘海は何とか笑顔を作ってキッチンに向かう。
日本の正月料理を作ると弘海が宣言したためか、リュウスはキッチンにやって来なかった。
ショーンの傍らに座り、体調を気遣うような表情をしている。
「ショーンさま……体調のほうはいかがですか?」
「弘海のおかげでずいぶん良くなった」
「弘海さんの看病のおかげで?」
「ああ……」
具体的にキスをしたことなどは言わなかったが、リュウスは気づいたのだろう。
どことなく傷ついたような顔をしている。
弘海は何も聞こえなかったふりをして、料理に集中した。
料理に集中していれば、いろんなややこしいことや嫌なこともすべて忘れることが出来る。
正月料理といっても、弘海自身、特に誰かから教わったこともないので、本を見て覚えた雑煮や栗きんとん、出し巻き卵ぐらいしか作れない。
黒豆煮は時間がかかりすぎるので、出来合いのものを買ってきていた。
他にもいくつかのものは出来合いで済ませることにしている。
とりあえずメインは雑煮だろうか。
野菜や魚を切っている間に、鍋には出汁を作っておく。
魚の下ごしらえをし、野菜を放り込んだら、後はもう煮込むだけだった。
煮込んでいる間に、栗きんとんと出し巻き卵に取り掛かる。
結局、ひと通りの料理が終わる頃には、もう夕方近くになっていた。
本来ならおせち料理は何日もかけて作るものらしいから、これでも早くできたほうだとは思うのだが。
「お待たせ。遅くなってごめん……えっと、これがお雑煮。お正月に食べる定番のメインメニューかな……それからこっちは栗きんとん、黒豆、出しまき卵、あとは買ってきた鯛の焼き物と、数の子」
「すごいな……ご馳走だ」
「うん。本当はもっと豪華なんだけどさ……俺が作れるものって、これぐらいだから」
さっそく箸を使って食べ始めたショーンを見て、弘海はリュウスにも食事を勧めた。
「リュウスも食べて。朝から何も食べてないだろ?」
「ありがとうございます。いただきます」
拒否されたらどうしようかと思ったが、リュウスは素直に箸を持ち、雑煮を食べ始めた。
「おいしいですね……あっさりとしていて。国にはない味です」
「そう? 良かった……口に合わなかったらどうしようかと思ったけど」
「いえ。勉強になります。僕は国の料理しか作れないので、この国の料理も作れるようになりたいです」
それはショーンのためなのだろうかと、弘海は思った。
リュウスが起こす行動は、何もかもがショーンのためだったり家のためだったりで、考えてみると自分のためにしていることはほとんどないかもしれない。
弘海は何となくリュウスがかわいそうになった。
(ショーンが俺を諦めて……リュウスと一緒になることが出来たら……リュウスは幸せになれるんだろうか……)
そんなことを考え始めると、弘海はまた暗い気分になった。



決して広くはない部屋に、三人で同居するというのは、あまり快適なものではない。
三日間という休みが出来たおかげで、弘海は改めてそのことを思い知った。
「そうだ、せっかくの休みだからさ。みんなでどこかに行こうよ!」
弘海がそう切り出したのは、正月の二日目の朝だった。
「お弁当作ってさ。ちょっと寒いけど、どこか公園とか!」
「外……雪が降ってますけど……」
リュウスの冷たい突っ込みに、弘海はがっくりとうな垂れる。
「雪……だと、確かに外は辛いかもなぁ……そうだ、じゃあ神社に初詣に行こうよ! みんなでさ! 人も多いし、きっと寒さもそんなに感じないと思うよ!」
「初詣?」
ショーンが不思議そうな顔をして首をかしげる。
「今年一年、幸せな年でありますようにって、この国の神様にお願いしに行くんだよ。ついでに出店なんかも出てるから、美味しいものも食べれるし!」
「俺は行ってもいいぞ」
「僕も行きます」
ショーンの返事を聞いて決めたと言わんばかりにリュウスが返事をした。
「じゃあ、三人で行こうか。ショーンもリュウスも、ちゃんとコートを着てね」



弘海たちがやって来たのは、マンションから歩いて十分ほどの距離にある神社だった。
この界隈ではちょっと有名な神社で、電車に乗ってわざわざやって来る人もいるぐらいだ。
「やっぱりすごい人だなぁ……」
元旦はもっとすごい人出だったのだろうが、二日目でもかなりのにぎわいだ。
「ショーンもリュウスも、迷子にならないように気をつけてね」
せっかく初詣に来たのだから、日本の文化をいろいろと教えてあげたいと弘海は思った。
「弘海、あれは何だ?」
ショーンが指さしたのは、境内の中に飾られた大量の絵馬だった。
「あれは、願い事を書いて神様に奉納する絵馬っていうやつだよ」
「ほう……」
「願い事が叶ったら、そのお礼に奉納する時もあるみたい」
「なるほど……」
ショーンもリュウスも珍しそうに辺りを眺めている。
やはり狭い部屋を出て、二人を外へ連れ出してきたのは正解だと弘海は思った。
「あれ、弘海? お前も来てたんだ」
声をかけてきたのは、三芳だった。
「こんにちは。明けましておめでとうございます!」
「おめでとう。あ、同居の人ももう良くなったんだ。出歩けるんだったら安心だな」
三芳がそう言うと、ショーンは軽く頭を下げた。
「本当に三芳さんには毎回お世話をかけてすみません。もうすっかり元気ですので」
「いや、別に世話ってほどのことはしてないし」
「今日はお一人ですか?」
「健介と一緒に来たんだが、車を店の駐車場に入れにいってる」
「ああ、神社の駐車場はいっぱいそうですもんねぇ」
「うん……あ、戻ってきたな」
三芳が視線を向けたほうから、橘が歩いてくるのが見えた。



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