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翌朝、ショーンとリュウスに今夜は戻らないと告げて、弘海はマンションを出た。
リュウスは何か言いたそうな顔をしていたが、ショーンは少し不機嫌そうな様子だった。
とりあえず、ひと晩二人でいれば、何らかの話し合いをするに違いない。
そうであって欲しいと弘海は心から思う。
「…………」
すべてを忘れるようにかぶりを振りながら、弘海は早朝の道を歩く。
まだ夜も明けきっていないから、外は真っ暗だ。
この時間に明るくなり始めたら、春のきざしなのだが、まだまだそれは遠そうだった。
店に着くとすでに明かりはついていて、先に到着した橘が作業をしていた。
「おはようございます」
「おはよう。今夜の話、聞いた?」
「あ、聞きました。カウントダウンパーティですよね? お邪魔する方向で考えています」
「そうか。宗助と二人きりだとちょっと寂しすぎるから、弘海が来てくれると嬉しいよ」
弘海は手を洗い、さっそく並べられた材料を混ぜ合わせていく。
「昨日は途中で帰っちゃってすみませんでした。店に戻ってきたのは遅かったんですか?」
材料を準備しながら聞くと、橘はボウルの中の生地をこねながら苦笑した。
「さんざんだったな……戻ってきたらもう閉店してたよ。ちょっとお世話になっている人の紹介だったから断れなかったけど……これからはテレビの出演なんかはセーブしようかと考えてる」
「そうなんですか?」
「その分の時間を、新商品を考えたりするのに使いたいしね」
「そっかぁ……」
弘海からしてみれば、テレビに出れて、アイドルとも話が出来るなんて羨ましい気もしたが、橘の性格を考えると、パン作りに費やす時間を減らされたくないと思うのも自然なことかもしれなかった。

夕方に店を閉め、その後は厨房から店内、そして店の外までスタッフ全員総出で大掃除を行なった。
大掃除が終わった後は帰宅する者は帰宅し、弘海は橘や三芳とともに店に残った。
「買い物は帰りにすればいいか」
「そうだな。食材を見ながらのほうが作るもののイメージも沸いてきそうだし」
三芳の言葉に橘は苦笑する。
「作るのはどうせ俺だろ。宗助は食べる係のくせに」
「食べる相手がいないと、作りがいなんてないだろ? だから俺は健介のために食べる役になってやってるんだぜ」
「上手いこと言うよな。そう思わない、弘海?」
「はは、そうですね。でも、俺も食べる係になっちゃいそうですけど」
「弘海はいいよ。お客さんなんだし」
「俺だって客だろ」
「一週間に何日も入り浸るようなのは、もう客の範疇じゃないよ」
橘の言葉に、三芳は苦い顔をして肩をすくめた。
「今日は車を置いて帰るか。俺の車はツーシーターだから、三人乗れないしなぁ」
店内の電気を消し、戸締りをして外に出ると、もうすっかり夜だった。
おまけに雪も降っている。
「弘海……」
「はい?」
「あのさ……彼……待ってるみたいだけど……」
「ええええええ?」
三芳が指さした先に、確かにショーンの姿があった。
「もう……今日は帰らないって言ったのに……ちょっと言ってきます。すみません」
「一緒に連れて行ってあげたらどう?」
橘が気を使ってそう言ってくれたが、それではリュウスを一人で残すことになってかわいそうだし、ショーンが橘や三芳の前でとんでもないことを言い出しそうで嫌だった。
「いいえ。大丈夫です」
弘海はきっぱりと断って、ショーンの元に駆け寄った。
「今日は帰らないって言ったじゃん。何で来てるんだよ」
「弘海と話がしたかった」
今日はいつもより店から出てくるのが遅かったから、かなり長い時間外に立っていたのだろう。
さすがのショーンも青白い顔をしている。
何となく可哀想にはなったが、それでも一緒に連れて行くという選択肢はないと思った。
「とりあえず……今日は橘さんのところに行くって言っちゃったから……ショーンは一人で帰って」
「弘海……俺は……」
「お願いだから……ちゃんとリュウスと話をしてあげて……リュウスの話を聞いてあげて……」
「俺の話も聞け……」
少し怒ったようにショーンは言う。
弘海はため息をついた。
「ショーン……俺は何を言われても、絶対に無理だから。俺を選択肢の中に入れるのは本当にいい加減にやめて欲しい……」
弘海は言ってから、異変に気づいた。
ショーンの呼吸が少し苦しそうだった。
「ショーン? もしかして具合が悪いの?」
「ああ、寒いな……」
「そりゃ雪の中ずっと立ってたら寒いよ……とにかく早くマンションに戻って……」
弘海は気になってショーンの額に触れてみた。
寒そうな様子をしているのに、その部分だけは異常に熱くなっていた。
「これ熱があるよ……大丈夫!?」
「頭はふらふらするが……」
「熱があるからふらふらして当然だよ……ちょっと待ってて。橘さんたちに言ってくる」
店のほうを見ると、橘が車を移動させてきたところだった。
「橘さん、三芳さん……本当にすみません! ちょっと同居人が熱を出しちゃったみたいなんで……今日は帰ります」
「それは大変だな……送って行こうか?」
「出来れば……お願いしてもいいですか? すみません、せっかくのパーティなのに……」
「いや、いいよ。ともかく彼を連れておいで」
橘が快く応じてくれたので、弘海はショーンの腕を引いて車の中に押し込んだ。
三芳が助手席に乗り込むと、橘は弘海のマンションに向けて車を走らせてくれる。
「病院は行かなくていい? 今日は大晦日だし、時間も時間だからやってるのは救急ぐらいだろうけど……」
「あの……大丈夫です。ひと晩寝かせてみて酷くなるようだったら、明日救急に連れて行きます」
「電話をくれたら車を出すから。遠慮せずに声をかけて」
「はい……本当にすみません……」
車の中でのショーンは、意識がかなり朦朧としているようだった。
弘海の肩に寄りかかるようにしている様子に、少し胸が痛んだ。
もう少し早くショーンが来ていることに気づいていたら、こんなに長く待たせることもなかったかもしれない。
あんな寒空の下、長時間外にいたら、いくら頑丈な人間だって体調を崩すのは当然のことだと思う。
やがて車は弘海のマンションの下に到着した。
「着いたよ。本当に病院に行かなくても大丈夫?」
橘は心配そうに声をかけてきたが、とりあえず弘海は頷いた。
「大丈夫です。本当にありがとうございます。行こう、ショーン……歩ける?」
さすがに足元はふらついていたが、ショーンは何とか立ち上がり、弘海の体に支えられるようにして歩き出した。
その様子を、橘と三芳は不安そうに見送る。
「本当に大丈夫かな? この間も意識なくして倒れてたし……」
三芳が言うと、橘も頷いた。
「顔色もかなり悪かったし……あれは相当に熱がありそうだけど……」
「まあ……今日はちゃんと自分で歩いてたから、この間よりはマシか……」
「それにしてもショーンって……」
「ん?」
「彼の名前」
「ああ、確かそんな名前だったな」
「弘海の猫も同じ名前なんだけど」
橘が言った言葉に、三芳は思わず笑った。
「彼の名前を猫につけたのかな?」
「どうだろう……あまり身近にいる人間の名前って、ペットにつけたりしない気はするんだけど……」
「まあ……人それぞれだし。そういうのがあっても、別にいいんじゃない?」
「そうだけど……」
どこか腑に落ちない様子で、橘はマンションの中に消えていく二人の姿を見つめた。



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EDIT [2012/01/25 08:35] 猫目石のコンパス Comment:0
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