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「ん~~、美味しいこのパン!」
弘海がぱくぱくとパンをほお張っていると、その様子を橘が笑って見つめていた。
「弘海はさっきからパンのことばかり褒めてるな」
「あ、でも、パスタもこの肉料理ももちろん美味しいですよ!でも、やっぱりパンの味に集中してしまうんですよね……職業病かなぁ……」
「俺も弘海ぐらいの頃はそんな感じだったよ。パンのことばかり考えてた」
「へえ……そうなんだ?」
「パン屋になろうって考えたのが、ちょうど高校を卒業する前ぐらいの話だったからね」
「そうなんだ。じゃあ本当に俺と同じぐらいだ」
「そこから製パンの学校に通って、フランスに行って……けっこう自分の思い通りにここまで来れた気がするな……」
「すごいなぁ……俺は店で働かせてもらって、橘さんからパン作りを教わってるからパン職人になろうって思ったけど……もし普通に高校に行ってたら、まだ自分の将来なんて考えたりしなかったかも……」
「普通はそんなものだよ。弘海はパン作りが好き?」
「大好きです!」
「それは嬉しいな。じゃあ俺は弘海が立派なパン職人になれるように、しっかりアシストするよ」
「アシストだなんてとんでもない。もったいないです。こき使ってください。自分で頑張って学習しますから!」
「頼もしいな、弘海は」
美味しいランチを食べながら橘とパンのことを話すのは、弘海にとって何よりも幸せなことだった。
「弘海、今度家に遊びに来る?」
食事を終え、食後のコーヒーを飲んでいると、唐突な感じで橘が言った。
「え……?」
弘海は驚いて顔を上げた。
「そうだな、店の定休日にでも」
「あ、は、はい! 行きます行きます! 橘さんって一人暮らしでしたっけ?」
「うん。そんなに広いマンションではないけど、料理ぐらいは作ってあげれるよ」
「橘さんってパンだけじゃなくて料理も作れるんですか?」
「まあ……フランスにいた時は毎日外食できるようなゆとりもなかったし。向こうのスーパーで買った食材を使って、レストランで食べたようなものを作ってみたりもしたよ」
「へえええ……じゃあ作るのはフランスの料理なんだ?」
「そう。和食よりは向こうの家庭料理やビストロで出てくるようなもののほうが多いかな」
「楽しみだなぁ」
「年内にあと一度だけ定休日があったな。その日はどう?」
「あ、大丈夫です。問題ありません」
「じゃあその日にしよう。弘海も久しぶりに羽根を伸ばすといいよ」
橘がいきなり自宅に誘ってきたことに弘海は少し驚いたが、嫌な気分ではなかった。
むしろ、橘のプライベートに踏み込ませてもらえることに嬉しささえ感じていた。



「ただいまぁ」
マンションの部屋に戻ってみると、ショーンは黒猫から人間の姿に戻っていた。
(人間に戻ったり猫になったり……大変だよなぁ……)
そんなことを考えながら部屋に入ってみると、ショーンはやはりどことなく気だるそうな様子だった。
「ご飯食べる? 俺は今食べてきたところだから、食べるなら作るけど?」
「……食べる」
「じゃあ、ちょっと待ってて。何か食べたいものはある?」
「弘海の作るものなら何でもいい」
「何でも、か……うーん、一番困るリクエストだな」
弘海は苦笑しながらキッチンに向かう。
猫のカリカリは置いていったから、猫の姿の間はそれを食べていたのだろうが。
人間の食べるものは置いていかなかったから、ひょっとするとショーンはずいぶん長い時間、空腹を我慢していたのかもしれない。
橘に(弘海にしては)豪華なランチをご馳走してもらっていた身としては、何となく肩身の狭い思いだった。
「よし、じゃあオムライスにしよう。冷凍庫にご飯残ってたはずだし」
ご飯は炊いた時に一回分づつに分けて冷凍してある。
冷凍庫を開けてみると、まだ3回分ぐらいのご飯のストックがあった。
「あとは野菜と卵……肉はないからベーコンでいいかな……」
適当に野菜を刻んで、ボウルに卵をとき、フライパンを温める。
冷凍したご飯と野菜をいため、いったん取り出したら、今度は具を包む卵を焼く。
軽く火を通した卵の上に具材をのせ、それを卵でくるりと巻いたら弘海特製のオムライスの出来上がりだ。
「はい、出来たよ。今日はスープはインスタントだけど」
「ありがとう」
生真面目に礼を言って、ショーンはオムライスを口に運ぶ。
昨日も思ったことだが、他人が自分の料理を食べる瞬間というのは、何だか緊張する。
弘海は気がつけば、ショーンがどんな顔をするのかじっと見つめていた。
「ど、どう?」
「美味いな」
「良かった」
ホッとした気持ちで、弘海は自分用のエスプレッソを入れる。
エスプレッソマシーンは、夏の弘海の誕生日に橘が贈ってくれたものだった。
とても弘海の給料だと手が出ないほどの高級品だ。
最初は遠慮がちに使っていた弘海だったが、今では毎日のようにありがたく使わせてもらっている。
「そういや……怪我の具合はどう?」
「だいぶ良くなったな。もう包帯を取っても大丈夫だろう」
「そうか……なら良かった」
ショーンは少し大きめに作ったオムライスを残さず全部食べてくれた。
「ごちそうさま」
「あ、もしかして足りない?」
弘海が心配になって聞いて見ると、ショーンは苦笑いした。
「いや、あまり動いてないから大丈夫だ」
「そうか、そういや外に出てないもんね」
「まだ危ないのがうろついてるからな」
「そうなんだ?」
弘海の言葉にショーンは頷く。
「時々、気配が近づいてくるのを感じる」
「この辺りにショーンがいるっていうのが相手も解ってるのかな?」
「そうかもしれない」
「ずっと黒猫でいるのは難しい?」
「難しいな……じりじりと魔力を消耗するから……」
「そ、そっか……魔力か……」
魔力を補給する方法は限られている。
一ヶ月ほどあまり消耗せずに休み続けるか、もしくは性的な行為を行なうか。
一ヶ月休み続けるというのは、ショーンが追われている以上、難しいことなのかもしれない。
昨夜もいつの間にか猫の姿になっていたし。
「あ、あの……昨日みたいに……キス……だけならいいよ……」
弘海は思い切って言ってみた。
「でも、キスだけじゃ……それほど回復……しないか……」
昨日の今日でもうかなり消耗しているみたいだし。
ひょっとすると、焼け石に水のような状態なのかもしれない。
そんなことを考えていると、ショーンがふと思いついたように言った。
「もう少し踏み込んだことをすれば、回復量はずいぶんと増えると思うが」
「ふ、踏み込んだことって!?」
「弘海の体に触れる」
弘海はちょっと悩んだ。
このまま敵が諦めなければ、ショーンは猫になる回数も増え、そのうちに魔力が尽きてしまうことだってあるかもしれない。
最後までされるわけじゃないのなら、体を触られることぐらい我慢できるかも……。
しばらく悩んで考えたあと、弘海は自分を励ますように頷いた。
「い、いいよ……体……触っても。最後までは……駄目だけど……」
ショーンは弘海をじっと見詰めてくる。
何だかキスしたり体を触られたりする相手に見つめられるというのは恥ずかしい気分だった。
「す、するんなら……早く……俺、明日も早出だから、早く寝ないといけないし……」
「解った」
ショーンが手を伸ばしてきたので、弘海は素直にその体に身を預けた。



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EDIT [2012/01/05 11:38] 猫目石のコンパス Comment:0
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