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「文礼に会ったよ」
悠樹が漣に報告したのは、その日の夜、仕事から帰ってくるなり悠樹をベッドルームに連れ込んで、ほとんど前戯もなしに繋がり、とりあえずは一度お互いに達した後のことだった。
悠樹としてはお互いに無口になりがちなベッドの上での会話の切り口にしようと思った程度だったが、それを聞いた漣は明らかに動揺していた。
滅多に顔色を変えることのない漣が、戸惑ったような、困惑したような表情をしていて、悠樹のほうがかえって戸惑ってしまいそうになるぐらいだった。
そんなに大した話をしたつもりではなかっただけに、自分の放った言葉の影響の大きさに驚かされた。
「どうしたの?」
「いや……あいつは何かお前に言ったか?」
「ん……偶然だねって言ってたかな。あと、大学に来たのは何かうちの大学に用事があるからだって言ってた」
「そうか……」
そう言ったきり、漣は何かを考えるように黙り込んでしまった。
「あ、そういえば、淳平が文礼は俺に似てるって言ってた。でも、自分ではまったく似てるように思わないんだけど」
会話の糸口に困り果てて言った言葉は、漣をますます難しい顔にさせてしまった。
悠樹は自分の作戦が失敗したことを認識しつつ、食事の誘いに頷いてしまったことは言わないほうが良いなと判断した。
「……文礼には近づくな」
ずいぶん長い沈黙の後、漣は悠樹の目を覗き込むようにして言った。
「え?どうして?……っていうか、今日だって会ったのは偶然だし、近づくも何も……」
「いいから近づくな。たとえあいつが話しかけてきたりしても、相手にするな」
「漣兄さん……」
「わかったか?」
それは悠樹の返事を求める言葉ではなく、一方的な命令のようだった。
漣のあまりにも強い言葉に、悠樹はとりあえず頷いた。
しかしそうして頷かせておいて、やはり何かを考えるようなそぶりをしていた漣は、少しためらうような口ぶりで言う。
「大学……やめるわけには行かないか?」
その言葉に、悠樹は思わず目を見開いた。
「そんな……どうして?無理だよ。っていうか、やめたくない」
「じゃあ、やめろとは言わないから、しばらく休むのは?」
「休んだら授業についていけなくなる。それに友達にだって心配をかけるし……」
「一年……いや、半年でいい。休めないか?」
「……無理。それは絶対に嫌だ」
この件に関して、悠樹はまったく引く気はなかった。
どんなに自分の生活が変わろうと、大学だけは今まで通りに通いたかった。
そこだけは悠樹にとって譲れないものなのだ。
「漣兄さん、俺は確かにあなたと取引をして恋人になった。生活やいろんなことが目まぐるしく変わったけども、それを自分なりに受け入れようと努力してきたよ」
「悠樹……だから……」
「決めたのは自分だから、できることは何でもしようって思った。でも、大学のことだけは譲れない。他のことならかまわないけど、大学のことだけは……」
「半年だけだ。半年、辛抱してくれ。半年でケリをつける」
「嫌だ!」
悠樹は強く言って、漣の目を見据える。考えてみれば、本気で漣に口答えしたのは、これが初めてのことかもしれない。
「どうすればいいの?どうしたら許してくれるの?俺、大学をやめるのも休むのもしたくない。どうすれば漣兄さんは満足なの?」
「悠樹……」
「他のことならなんでもする……どんな嫌な事だって我慢する……大学にちゃんと通えるんだったら……だから、俺が何をすれば満足なのか言ってよ……」
漣はなぜだから少し悲しそうな目をして悠樹を見つめている。
自分でも思いもしなかった涙が溢れ出した。こうと決めたら、漣は必ずそうするのだ。自分がどれだけ抵抗しても、大学をやめさせられてしまのだろうか。
そんなことを考えているうちに、後から後から涙があふれて止まらなくなってしまう。
「悠樹……」
叱責を受けるとばかり思っていたが、漣は意外なほど優しくj悠樹を抱きしめてくる。そしてしゃくりあげるようにして泣き出した悠樹の背を、なだめるように撫でてくる。
「……わかった。大学は今まで通り通っていい」
「本当に……?」
悠樹が涙をいっぱいためた目で顔を上げると、漣は頷いてくれた。それが嬉しくて、また涙が溢れ出してしまう。
「ああ……だが、約束してくれ。文礼には絶対に近づかないと」
「うん……約束する」
「もしも近づくようなことがあったら、その時はお前が何を言おうと大学には通わせない。それでいいな?」
「……わかった」
なぜ漣がそこまで文礼にこだわるのかは解らなかったが、彼に近づかないことで大学へ行くという日常を守ることが出来るのなら、それは絶対に守ろうと思った。
漣が自分の意見を通さずに悠樹の意思を尊重してくれたのは初めてのことだったし、それがとても嬉しかった。
漣は唇に触れるだけのキスをすると、そのまま悠樹を抱き寄せる。
その夜はそれっきり何もして来ようとはせず、朝までまるで宝物を抱くみたいに悠樹を抱きしめていただけだった。



「おはよ!」
大学のキャンパスで淳平の姿を見つけて悠樹は駆け寄った。
「おう、朝っぱらから元気だな」
「うん!」
にこにこと機嫌の良さそうな悠樹を、漣は変なものでも見るような目で見つめている。
確かに漣が変に思うぐらい、今日の悠樹はテンションが高かった。
でも、漣に変な目で見られても、悠樹は喜びを隠すことが出来なかった。
昨夜は大学をやめろだの休学しろだのといった状態だったけど、とりかえずは無事にこの場所を守ることが出来たのだ。それが嬉しくてたまらない。
漣がこうと言ったら絶対にそうなるんだと思っていたけど、きちんと自分の意思を伝えれば、彼も解ってくれるのだ。
それが解ったということも、大きな収穫だった。
「今日『ING』いこうよ!」
「お、いいな」
「今日の日替わりランチ、何だろうなぁ」
「なんかお前……今日は本当にいい顔してるな。何かいいことでもあったのか?」
「いいこと……うん、あったよ!すごくいいことが」
「そうか」
そう言って、淳平は自分も嬉しそうに笑う。こうして嬉しいことも共有してくれるのが、淳平の良いところだ。
いいことの中身は言えないけれど、こして一緒に喜んでくれると、嬉しさが倍増するような気がする。
この場所を守ることが出来てよかった……そして、漣が理解してくれて本当に良かった。淳平とふざけあってキャンパスを歩きながら、心から悠樹はそう思った。



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EDIT [2011/07/02 07:56] Breath <1> Comment:0
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