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銀座から世田谷の自宅まで送ってもらい、この日はそれで漣とは別れた。
どうやら漣は仕事が入ってしまったらしい。
ひょっとして……昼間の文礼と会う約束でもしているのだろうか……。
ふとそんなことを考えたりもしたが、それはあまりにも漣があっさりと悠樹を解放したからだろう。
今日は休みだと言っていたから、てっきり夜まで付き合わされるのではないかと思っていただけに、悠樹は少しホッとした気分になった。
「ただいま」
玄関のドアを開けると、いつものように篠原が出迎えてくれる。
「父さんは?」
「まだお戻りになっていません。今日は遅くなるみたいですよ」
「そっか」
いちおう会社は落ち着いたとはいえ、まだまだ事後処理は終わっていないのだろう。
あちこちに奔走する父の姿が目に浮かぶようだった。
「それより漣さん、しばらく見ないうちにものすごく男前になりましたねぇ」
「え……」
篠原の言葉に、悠樹は一瞬どんな表情をしていいか解らなかった。
漣の名前が出ると、無条件に身構えてしまう自分がいるのだ。
「あの男前ぶりだと、周りの女性がほうっておかないでしょうねぇ。恋人なんかもいそうだし」
うっとりとそんなことを話す篠原に、悠樹は思わず苦笑する。
「篠原さん……」
「あらっ、失礼しました! ああ、そうでした。奥様がリビングでお待ちですよ」
篠原は顔を赤くして、パタパタとキッチンのほうへ走っていった。
恋人が実は男で、それが自分だと知ったら、篠原はどう思うだろう。



「ただいま、母さん」
悠樹がリビングに入ると、母の千里が穏やかな笑みを浮かべながら迎えてくれる。
「おかえりなさい。漣くんは帰っちゃったの?」
「うん、仕事だって」
「やっぱり忙しいのねぇ」
確かに、アメリカだけでなく日本でも仕事を抱えているのだから、悠樹に会う時間があるのが不思議なくらい、漣は忙しいのだ。
「引越しの話は進んだの?」
「え……」
「引越しするんでしょ?漣くんのマンションに」
「あ、ああ、うん……」
「お父さんからちゃんと話は聞いてるから、大丈夫よ。私もそろそろ子離れしなさい、なんて言われちゃったわ」
「ははは……」
思わず乾いた笑いが漏れてしまう。本当のことを話したら、いったい家族はどう思うだろう。
実は会社への融資と引き換えに漣の恋人になり、男同士で体の関係まで持っているのだと。
だけどそれを家族に話すつもりは一切なかった。
きっと死ぬまでこのことは黙っているはずだ。
悠樹はどちらかというと母似で、体の弱いところまで母に似ている。
心配をかけることで、母の体にまで負担をかけてしまうのではないかという不安が常にある。
「悠樹が決めたのだったら、引越しは早いほうがいいわね」
「え……?」
「でないと、母さんのほうが心変わりしてお父さんに叱られてしまいそうだもの」
そう言って千里は寂しそうに微笑んだ。
確かに、千里は一人っ子でもある悠樹を溺愛していた。
熱が出れば付きっ切りで看病するし、怪我をしたといえば一緒に病院へ駆け込んだ。
彼女にとって、自分がいかに大きな存在であるのかは、悠樹自身が一番理解していた。
「じゃあ……来週末ぐらいにしようかな……」
「来週末ね。わかったわ。悠樹が大学に行っている間にでも、着替えや何かは篠原さんと一緒にあちらへ送る準備をしておくわね」
「うん……」



部屋に戻ると悠樹は大きなため息をひとつ吐いた。
いろんなことが自分の周囲で変わろうとしている。
この部屋も、来週末にはもう毎日戻ってくる部屋ではなくなるのだ。
まったく実感は沸かないが、今までと同じものはほとんどなくなってしまうというのだろう。
「あぁ、そうだ……」
悠樹はバッグの中から漣にもらった時計の入った箱を取り出す。
「これも明日からしていかなといけないのか……」
うんざりとした気分で、悠樹はため息を吐いた。
淳平に何と言おうか……。
淳平からもらった時計は、机の引き出しの大切なものばかり入れているところに入っている。
腕時計をする習慣がなかったので、大切にしまってあるというだけのことなのだが。
それでも、悠樹が腕時計をしているのを見つければ、淳平は自分のプレゼントした腕時計のことを思い出すだろう。
「つけたくなかったけど従兄弟が強引に……とか言ったら余計にややこしくなるか……」
その夜、さんざん悩んだ末に、引越し祝いに父親から買って貰った物で、父親がつけて欲しそうだったからつけることにしたという無難な理由を使うことにした。
来週末が引越しになるのなら、もう淳平にも引越しのことを話さないといけないし。
その話の切り口にもなるだろう。



翌日、大学に行くと、やはり淳平は目ざとく腕時計を見つけた。
「あれ、時計しない主義はやめたのか?」
「ああ、うん……これ、引っ越し祝いに父さんからもらってさ。最近いろいろあったから、父さんも何となくつけたら嬉しそうな様子だったし」
「え?引越しすんの?」
驚いたような顔で、淳平は悠樹の顔を見つめてくる。
「うん、従兄弟のマンションに。大学までは今の家よりは近くなるし」
「従兄弟ってアメリカ帰りの?」
「うん」
悠樹の返事に、淳平は渋い顔をする。
明らかにあまり快くは思っていない様子だ。
腕時計のことなど、すっかり頭から飛んでしまっているみたいだった。
「お前さ、一緒に暮らすほどあいつと仲良かったの?」
「いや、仲がいいというかその……いろいろ勉強させてもらったりするつもりだから」
「勉強?」
「大学を卒業したら、いったん父さんの会社じゃなくて漣兄さんの会社に入ることになったんだ。それなら在学中からいろいろと教わったほうがいいんじゃないかって話になって」
悠樹は出来るだけ普通を装いながら話す。
淳平はここ最近の悠樹の態度から、漣に何かを感じ取っているのだろう。
こんなに険しい顔をした淳平の顔を見るのは、考えてみたら初めてかもしれない。
「あいつは何となく信用できない」
「そ、そんなことないよ。優しいし、頼りになるし……」
我ながら思ってもないことを口にするのは苦しかったが、今は漣をいい人にするしかなかった。
「企業経営も、アメリカと日本じゃ、ずいぶん違うらしいよ。そういうこと本当によく知ってるんだ。俺、漣兄さんを尊敬してるよ」
「そっか……お前がそう言うのなら、そうなのかもな……」
淳平はまだ納得できない様子だったが、それ以上は何も言わなかった。
いつでも悠樹の意思を尊重してくれるのは、昔からのことだった。
「父さんのこととかいろいろ心配かけたけど、それも全部、漣兄さんのフォローで解決したんだ。俺が力になれるかどうかは解らないけど、漣兄さんの会社で頑張ってみようと思うよ」
「そうか。頑張れよ。何か悠樹、大人っぽくなったよな」
「そ、そうかな?」
「うん。なんかしっかりした感じ」
そう言って淳平はクスリと笑う。
悠樹は少しの間考えて、その意図を悟り、むくれた顔をしてみせた。
「それってさ、前は頼りなかったって言いたいわけ?」
淳平はわざとらしく考えるようなフリをしてから答える。
「そういやちょっと頼りなかったかな」
「ひどいな」
悠樹が抗議するように腕を振り上げると、その腕を受け止めながら淳平は微笑んだ。
「でも、頑張れよ。ってか、俺も頑張らないとな。兄貴や親父にさんざんプレッシャーかけられてるけど」
「淳平なら大丈夫だよ。俺よりずっとしっかりしてるし」
「悠樹に言われてもなぁ」
「どういう意味だよ!?」
ちょっとギクシャクした空気も、いつの間にか元に戻っていた。
この空気は大切にしたいと悠樹は思う。
小学校の頃から自分の肌に馴染み続けているこの空気は、自分を心からホッとッさせてくれる。
万が一にも大学をやめさせられるようなことがあったら、もうこうして淳平とふざけあうことも出来ないのだ。
取引をしてしまった以上は、引越しや卒業後の進路みたいに漣に対して譲らないといけないこともあるけど、絶対に譲りたくないものだけはちゃんと守りたい。
淳平は悠樹にとって数少ない自分が自分でいれる場所なのだ。
この居場所は何が何でも守りたいと改めて思った。



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EDIT [2011/06/30 07:19] Breath <1> Comment:0
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