2ntブログ
2024/04:- 1 2 3 4 5 67 8 9 10 11 12 1314 15 16 17 18 19 2021 22 23 24 25 26 2728 29 30 - - - -

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

EDIT [--/--/-- --:--] スポンサー広告 コメント(-)

懐かしいマンションの下に立って、悠樹はちょっと嬉しくなった。
空は今にも雪が降りそうなぐらい、重い雲に覆われていたけれど。
悠樹の気分は晴れ晴れとしていた。
外の寒さも忘れてしまうぐらい、しばらくの間、そのマンションを眺めた。
さんざん眺めて満足してから、悠樹は手の中に握りしめた鍵を見つめる。
今日は久しぶりに漣のマンションに泊まることになっていた。
5日前のクリスマスイブイブに漣との関係が元に戻ったばかりだった。
翌日のクリスマスイブは午前中をホテルで過ごし、その後は漣も仕事があったので、そのまま別れた。
結局、斉藤は悠樹と会う前にニューヨークに戻ってしまっていた。
結果を聞いて、会う必要なしと判断されたのかもしれない。
漣の会社は今日が仕事納めらしく、悠樹は大晦日までの間、泊まりこむ予定になっている。
ちなみに、漣は今日を持って社長という肩書きを離れ、基本的には何の役所も持たない取締役で、業務のほとんどから解放される。
ただ、会社を引き継いだテツヤの要望で、重要な決定事項がある場合は会議に参加したり、意見を求められたりすることはあるのだという。
マンションのエントランスを合鍵を使って通り、エレベーターに乗り込んで漣の部屋に向かう。
漣はまだ会社から戻っていないはずだった。
戻ってくる前には連絡をくれる約束になっている。
やがてエレベーターの扉が開いた。
考えてみれば、一年と少しぶりの漣の部屋だった。
鍵を使って部屋の中に入る。
以前とほとんど変わらないシンプルな部屋の様子に、悠樹はちょっとホッとした。
部屋の匂いも何もかも、変わっていない。
悠樹は荷物をおいて、ソファに座った。
その感触も懐かしい。
ここで漣と一緒に過ごした時間よりも、離れていた時間のほうが長かったのに。
部屋の家具の位置やその匂いまでしっかりと覚えているのには、悠樹自身ちょっと驚いた。
悠樹の冬休みが終われば、漣はアフリカに旅立ってしまう。
アフリカから戻ってくるのは三ヵ月後らしいので、同居の再開はそれからにしようという話になった。
それまではこうして、時間があるときに悠樹が泊まりに来る形になる。
「課題のレポートでもやっていようかな……」
クリスマスイブに漣と別れて家に戻ってから、今日のためにかなりのスピードで課題は進めていたのだけど。
さすがにレポート課題はまだけっこう残っている。
悠樹はノートパソコンを開いた。



「ん~、疲れた……」
ノートパソコンに向かって2時間も集中していると、さすがに疲れてくる。
ちょっと休憩しようと思って立ち上がったところに、漣からのメールが届いた。
どうやら、仕事は今終わって、今からマンションに戻るらしい。
一時間も経たないうちに、漣がこの部屋に戻ってくるのだと思うと、悠樹はちょっと胸が弾んだ。
クリスマスの時には話しきれなかったいろんなことを、この3日間のうちにたくさん話すことが出来ればいいのに、と思う。
本当は3日どころじゃなく、ずっといたいぐらいだけど。
さすがに大晦日と三が日は家にかなりの来客もあるので、実家のほうにいる必要があった。
「まだ時間があるなぁ……」
そう思って、キッチンに向かう。
料理はしなくていいと念を押されていたので、さすがに料理をしようとは思わなかった。
たぶん、漣が戻ってきて、何か作ってはくれるのだろうけど。
「お茶でも入れようっと」
ケトルを火にかけ湯を沸かし、以前と変わらないティーポットで紅茶を淹れてリビングに戻った。
紅茶はこのマンションにいたときもかなり淹れたし、ニューヨークでもけっこう自分で淹れていた。
だから、以前よりも淹れ方は上手くなっているはずだった。
ちょっとアンティーク調の砂時計をセットして、紅茶が蒸れるのを待つ。
「よし、砂が落ちた!」
きちんと茶葉の量をはかり、蒸らす時間は砂時計を目安にすればいいのだから、紅茶を淹れるのは簡単な仕事だった。
ティーポットからカップに琥珀色の紅茶を注ぐと、良い香りが鼻腔をくすぐった。
口に含んでみると、さらに良い香りが口の中いっぱいに広がって、なんとも幸せな気分になる。
こんな幸せな気持ちでこの部屋にいれることが、悠樹はとても嬉しかった。
今は本当に素直に幸せだと思える。
漣がしばらく日本を離れてしまうのは、ちょっと寂しいけれど。
紅茶を飲みながら、再びパソコンを開いてレポートに向き合った。
そうしてどれぐらい時間が経っただろう。
玄関の扉が開く音がして、悠樹は思わず腰を浮かせた。
まるで駆け出すみたいに玄関に行くと、コートを片手に持った漣の姿があった。
「おかえりなさい」
久しぶりに告げるその言葉に、漣は笑う。
「ただいま」
何となく気恥ずかしくなって、悠樹は手を差し出して漣のコートを受け取った。
その悠樹の体を、漣はすっぽりと包み込むようにして抱き寄せた。
「ここで会うのは……久しぶりだな」
「うん……」
外が寒かったからだろう……漣の体はとても冷たかった。
悠樹はその体を温めるように、漣の背中に手を回した。
漣は悠樹の頬をなで、そのまま上を向くように促した。
すぐに漣の唇が重なってきて、悠樹は瞳を閉じた。
帰ってきたらすぐにキスをするというのが習慣になっていたことを、体はまだ覚えているみたいだった。
何度か唇を重ねあった後、漣がくすりと笑った。
「紅茶の味がするな」
「あ……今飲んでた。わかった?」
「ああ……」
悠樹はちょっと顔を赤くする。
キスを通して同じものを味わうというのは、何だか少し恥ずかしい気持ちだった。
そういう感覚も、何だか久しぶりだった。
「外は寒かったんじゃない?」
「そうだな……今日は特に冷えるな。雪がちらついていたし」
「雪か……気づかなかった」
驚いたように悠樹は目を見開いた。
「レポートでもやってたんだな」
まるで見透かしたように言われ、悠樹は思わず苦笑する。
「レポート以外の課題はほとんど終わったんだけど……絶対にレポートだけ最後に残るんだ……夏休みもそうだったし」
「間に合いそうになかったら、手伝ってもいいぞ?」
「駄目駄目。自分でちゃんとやるよ。そうでないと、漣兄さんがいないときのレポートの出来が恐ろしいことになりそう……」
そうか、と笑って漣は悠樹を部屋の中に促した。
「メシは?」
「作ってないよ……」
ちょっと申し訳なさそうに悠樹が答えると、漣は笑った。
「それでいい。実を言うと、作ってないか心配だったんだ」
「それって、どんな心配だよ……」
思わず抗議するように睨み付けた悠樹の頭を、漣はなだめるように撫でた。
「ちょっと待ってろ。すぐに作るから」
そう言って、漣はキッチンに向かう。
まだ着替えも済ませていないのに、スーツの上着だけを脱いで料理を始めた。
考えてみれば、漣の料理を食べるのも久しぶりだった。





ちょっと時間が出来たので、『Braeth』のSSを書かせていただきました!
ただ次の更新はちょっと時間が空くかもしれません(汗)
悠樹×漣のストーリー。
時間軸的には、Breath<2>の「繋がるカラダ」と「エピローグ」の間のお話になります。
全部で3話程度の短いお話になると思いますが、楽しんでいただけますと幸いです♪



にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村

ブルーガーデン
  


関連記事

EDIT [2011/08/31 22:35] Breath<SS> Comment:2
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/08/31 23:46] EDIT
>シークレットAさん

コメントありがとうございます!
喜んでいただけて嬉しいです♪
私自身も久しぶりに二人を書いていてとても楽しかったです♪

短いお話になると思いますが、また次回も読みに来ていただけると嬉しいです!
[2011/09/01 09:11] EDIT
コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

日生桔梗

Author:日生桔梗
オリジナルの18禁BL小説を書いています。

下記のランキングに参加しています。
よろしければ投票をお願いします!
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村



駄文同盟

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

最新トラックバック